神楽坂毘沙門寄席 第54回「菊之丞の会」レポート (2023/10/19)


第54回菊之丞の会

長かった記録的猛暑もやっと去ってくれました。秋の菊之丞の会は桂文生師匠門下の桂枝平さんでスタートです。前座噺の定番「子ほめ」、声量・目配りなどの基本に忠実な演じ方に好感が持てました。IT全盛の世の中ですが八五郎の大家さんも教えるように、上手く使う世辞・愛嬌は、現代に通じる有効なコミュニケーションツールなんですよね。枝平さんはこの会二度目の登場でしたが、格段の上達ぶりが窺えました。

菊之丞師匠の一席目は「居残り佐平次」。渋いグレーの縞と薄紫の羽織が品川の廓話にピッタリ合って見えました。私はこの噺を聴くたびに、日本の映画史に残る<幕末太陽伝>から数々の名シーンを思い起こします。佐平治は遊び代を踏み倒そうとするズルい確信犯なのに、その調子良く悪びれない図々しさは不思議に憎めない面を感じさせます。幇間顔負けの客とのやり取りで大いに笑わせてくれました。実は自分は凶状持ちだと妓楼の主人に話す場面から、次第にワルの怖い表情も覗かせるという表現が巧みでした。サゲの<おこわにかける=人を騙す>という部分が、今日のお客様に理解できたかなとチョット気になりました。

お仲入り後の二席目は黒紋付姿で「死神」。<アジャラカモクレン△×〇…>、死神が消えていなくなる呪文のところは、噺家さんによってその都度の世相を反映させた言い方に変えてくれるんですが、今日は話題の<ビッグモーター>が出て爆笑を誘いました。最後の蝋燭の灯が消える場面でも、私には初めての師匠独特の面白い工夫が見えました。

今日は大ネタが二席続いて、何だか得した気分でした。次回の菊之丞の会は2024年1月25日(木)です。新玉の年のお楽しみにどうぞお誘い合わせの上お運びくださいませ。

神楽坂がん子